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機械式クロノグラフのメカニズム分類

クロノグラフの仕組み(3)

クロノグラフを動かす手段は様々です。「作動させる仕組み」と、時刻機能から「動力を連結する仕組み」の2つがキーとなります。

メカニズムのカテゴリー

コスト面やスペースに有利なカムとスイングピニオンが主流の中、ゼニスやレマニアなどの高級機種は、今でもコラムホイールとキャリングアームによるクラシカルなメカニズムです。一方、近年、ロレックスをはじめとする自社開発された新しいムーブメントには、精度の面で有利な垂直クラッチ方式が多く採用されるようになりました。

【有名ブランドの代表的モデルが採用する方式】

作動方式
伝達方式
コラムホイール式
 操作性、耐久性に優位
作動カム式
 コスト重視で大量生産向き
キャリングアーム方式
 古典的で見た目重視
ゼニス クロノマスター/デファイ(*)
ランゲ・アンド・ゾーネ ダトグラフ(*)
グラスヒュッテオリジナル パノグラフ(*)
モーリスラクロア レ・クロノグラフ(*)
オメガ スピードマスタープロフェッショナル
エベル 1911BTRクロノ
スイングピニオン方式
 生産性重視
セイコー6S系(*)
IWC ダ・ヴィンチ(*)
カルティエ ワンプッシュクロノ
ETAバルジュー7750を搭載する中級機
IWC アクアタイマー/スピットファイヤー、ブライトリング クロノマット/ナビタイマー、オメガ スピードマスターオートマチック、タグ・ホイヤー リンク/カレラ/アクアレーサー、クロノスイス、オリス、ハミルトン、ラドー、ロンジン等
垂直クラッチ方式
 機能、精度重視
ロレックス デイトナ(*)
パテックフィリップ Ref.5960P(*)
フランクミュラー フリーダム(*)
ショパール クロノワン(*)
パネライ ルミノール1950(*)
フレデリックピゲ1185搭載する高級機
ブランパン レマンクロノグラフ、ジャガールクルト マスターコンプレッサークロノグラフ、オメガ コーアクシャル等
デュボアデプラ製モジュールやETA2894-2を搭載する中級機
ブライトリング モンブリラン、オメガ スピードマスターオートマチック、ボームアンドメルシエ、ジャンリシャール等
(*) 自社開発ムーブメント

緑:コラムホイール
黄:ドライビングホイール(クロノグラフ出車)
赤:トランスミッションホイール(中間車)
青:クロノグラフ車

オールド・クロノグラフの代表格ともいえるバルジュー社のキャリバー22。
ボタン操作で緑色のコラムホイールが回転し作動する「コラムホイール方式」で、トランスミッション・ホイールを持つアームがスライドして、秒針の裏側のドライビング・ホイール(黄色)と、計測用のクロノグラフ・ホイールが連結される「キャリング・アーム式」を採用しています。

作動方式

クロノグラフの作動を制御する方式には、上のサンプルのような「コラムホイール式」と、現在の主流である「作動カム式」の2つがあります。

コラムホイール式(ピラーホイール式)

プッシュボタンを押すときの指の力が動作に影響を与えず、クラッチやレバー類に無駄なトルクがかからないため、次のメリットがあります。

・ ボタンの操作感が良い

・ アームやクラッチ等の作動が安定

50年代のブライトリングのナビタイマー(Venus178)のコラムホイール

作動カム式

現在の主流であるカム式は、高い工作技術が必要なピラーホイールと比べ、コストが低く大量生産に向いています。

・ 低コストで製造、メンテナンスが容易

・ カム作動時に強い力が加わる

・ ボタンの操作感が重い

レマニア1873(オメガ1861)のカム

ETA社のバルジュー7750のカム

伝達方式

動き続ける秒針の歯車から動力を伝達・切断する方式には、古典的な「キャリングアーム式」、現在の主流の「スイングピニオン式」、そして近年注目されている「垂直クラッチ式」の3つです。

キャリングアーム方式

伝統的な技法で、稼動するメカニズムが大きいので視覚的なメリットがあります、しかし、その分、発停時のトルクロスが大きいため、テンプの振り角が一時的に落ちて精度に影響を与えます。
垂直クラッチに対して水平クラッチと呼ぶこともあります。

・ 見た目が良い(多くのメゾンが美観を理由に採用している)

・ 針が飛びやすく調整が難しい

・ 作動時にテンプの振り角が落ちる(精度に影響を与える)

ユニバーサルのキャリングアーム

スイングピニオン方式

19世紀末にホイヤーが考案した方式で、下段の時刻機能と上段のクロノ機構を細い回転軸(ピニオン)で接続します。発停時のトルクロスを抑えることができます。

・ 無駄な動きがなく省スペース

・ 低コストで量産向き

・ 作動時に針が飛びやすく調整が難しい

ETA7750のスインギングピニオン

バルジュー92のスインギングピニオン

垂直クラッチ方式(摩擦車方式)

アームでクロノグラフランナーを持ち上げて動力を切り離しておき、作動時には、回転している下部の歯車と重なって一緒に動き始めます。発停時のトルク・ロスが少なく針飛びもないため、精度重視の方式です。

・ 正確な動作で、精度が高い

・ ムーブメントの厚みが出る

・ メカニズムがブリッジの下に隠れてしまう

世界初の垂直クラッチ(ピアース)

セイコー6139Aの垂直クラッチ

独立輪列方式(ジャガー・ルクルト デュオメトルcal.380)

クラッチがない革新的な方式。

クロノグラフ専用のゼンマイと輪列を別に持ち、末端の星型脱進歯車が、時計用の脱進機構と噛み合うことで動き出します。発停レバーで星型脱進歯車を止めると、時計側と噛み合わない絶妙な位置で停止するので、クロノ輪列が止まった状態でも時計は動き続けます。

・ 発停時のトルク・ロスがない

・ 作動中もテンプ振り角が落ちない(精度が高い)

・ 量産が困難



その他のメカニズム

スライディングギア

クロノグラフランナー(秒積算)と分積算を連動させる仕組み。ハンマーでゼロポジションにリセットする時、スライドしてクロノグラフランナーと分積算計を切り離します。

リセット方式