手巻式ミリタリー・ウォッチの製作

Making of The Hand Winding Military Watch

完成図

夜光塗料と大きなアラビア数字で視認性に優れるダイヤル。
1948年に登場し、タイプ48(TYPE 48)として知られるこのスタイルは、イギリス空軍(RAF)をはじめとする空軍、民間航空会社(RAAF、BOAC、Qantas)で採用されました。今は、IWCのMK XIの文字盤デザインで有名。

オリジナルのミリタリー

レトロなスタイルのミリタリーウォッチを自作してみます。
40年代のドイツのパイロットウォッチをモチーフにコインエッジベゼルを使ってみました。ダイヤルもマットなブラックに、夜光塗料で大きめのアラビア数字。

パーツと道具

完成図をイメージしつつ収集しました。パーツを集めている時は結構楽しいです。

ステンレスケース
ドイツのミリタリーといえばコインエッジベゼル。eBayオークションで入手。
直径39mm、厚さ9.5mm
ダイヤルと針
文字盤、針ともにシンプルなタイプ48をセレクト。オリジナルパーツやウォッチを販売しているMK II Watchで入手。秒針の先端をオレンジにペイント。

革ベルト
NATO軍G10ナイロンストラップのレザー版特別仕様。非収縮シートを2枚の皮で挟み手縫いで仕上げたもの。ドイツ製。20mm。通常のストラップに比べ長く、特殊な構造をしています。アンティークウォッチ・オンラインで入手。

ムーブメントの選択

今回のケースには、直径25.60mmのETA2801系ムーブメントが使えます。手元にあるものは以下の3個です。(Frei&Borelやバラした時計から)

ETA2824
基本ムーブ2801に自動巻き機構と日付表示を追加したETA社の定番。
ETA2804
基本設計は自動巻きの2824と同じ。手巻き式。2801の日付付き。
ETA2850
2801をスケルトン仕様にしたもの。

味わいのある手巻き式がミリタリー風だと思います。ケースの裏側がシースルーバックなので、美しいスケルトン仕上げの2850にするつもりでした。が、文字盤側の厚みがあったため、2804を選択。サーチナ社(CERTINA)の銘の入ったデッドストックの良品です。

カレンダー機構は不要なので取り外します。

文字盤側を上にしてホルダーに固定

カレンダー機構を取り外します。

文字盤の取り付け

文字盤の裏側は2本の足があります。

文字盤

下に敷いているのはウォッチペーパー

文字盤の足を固定するムーブメント側のロックを外します。時針を取り付けるツツ車とムーブメントリングを取り付けます。

2箇所ある文字盤のロック

筒車と外周に取り付けたリング

文字盤にはキズや汚れが付かないように細心の注意をはらいます。

文字盤を装着

文字盤を2箇所でロックします

巻き真を取り付け盤のロック

ホルダーに固定

針の取り付け

ここで、問題が発覚。一番外側に時針、真ん中に分針、中心の細い軸に秒針を付けるのですが、時針を付ける一番外側(ツツ車といいます)が高すぎて、分針を付けられません。

問題のツツ車。ツツ車がわずかに見えます。

彫金用ヤスリで削ります

そこで、ツツ車の高さを削って調節します。これで、均等に針が付けられるでしょう。

高さを調節したツツ車。

全体

ふたたび、文字盤を付け、針の取り付けに着手。

時針は深く押し込みすぎると、文字盤との摩擦で動かなくなります。1本でも動かないとすべてが連動している時計全体が止まってしまいます。

HOROTEC社のハンドプレス

0.3mmのアクリル板を利用

針同士がぶつからないように慎重に取り付けます。また、12時に正しく時針と分針が重なるように、正確に12時方向に取り付けなくてはいけません。

針のすきまのアップ

針が付いた文字盤

ケーシング

ムーブメントは、金属製のリングでケース内部に固定します。が、部品がないので、適当なクランプ(留め金)を使いました。

ムーブメントリング

クランプ

リングに固定

ケースをかぶせ、裏返して、クランプでケース内側に固定します。

上からケースをかぶせます

クランプで固定

ムーブメントがガタつかないように固定します。クランプだらけでガチガチに固定してあるので格好悪いです。

問題発生

ふたたび、問題が発生。

オシドリが外れる

巻き真を挿入する時に、ロックを強く開放しすぎたため、オシドリとカンヌキ周辺の噛み合わせが外れました。文字盤側なので見えませんが、分解が必要です。

巻き真が短い

デッドストックのムーブメントのため、巻き真が短めでした。さらにケースも大きいので、正しい位置まで巻き真が届かないことが判明。

巻き真が短いのでリューズが邪魔して奥まで入らない

一旦、ばらします。

バラバラにします

オシドリ周辺を分解します。

文字盤側

オシドリやカンヌキ、ツヅミ車、キチ車などなど

現在のETAムーブ用の長いスペアがありましたが、直径が太く今回のムーブメントのツヅミ車とキチ車に通すことができません。

巻き真とツヅミ車、キチ車のアップ

上が今回のムーブメントの巻き真。下が直径の太いスペア。

そこで、壊れたスウォッチのものを転用することにしました。内径が大きく、スペアの巻き真が通ります。

左が今回のオールドムーブのもの。右がスウォッチのもの

ツヅミ車、キチ車を交換し、オシドリ、カンヌキなどを組みなおします。組んだ部品を壊さずに板ばねを付けるのはとても難しいです。この板バネは、最近の28xx系では裏押さえと一体化しています。

オシドリ、カンヌキ、ツヅミ車、キチ車

裏押さえをかぶせる

デッドストックのETA2804から比べると、現在のETA28xx系はメンテしやすく改良されており、巻き真も太く耐久性が高くなっていることがわかりました。

ケーシング2

ふたたび、文字盤、針、ムーブメントリングを取り付け、ケースに収めます。今度は、リューズが正しく挿入できました。

新しい巻き芯をセット

巻き芯の長さを調整します。四つ割りで真をしっかり掴んで、プラスチックのリューズを外します。

四ツ割り

ニッパーでカット

ニッパーで長さを調節しながら、新しいリューズを付けます。好みのクラシカルなオニオン型リューズです。

新しいリューズをセット

シースルー裏蓋(うらぶた)をかぶせ、ケースオープナーでしっかりとねじ込みます。ケースオープナーのツメはエッジが鋭いので、ケースを傷つけないようにビニールの上から挟み込みます。

裏蓋をかぶせる

明工舎(MKS)のケースオープナー

これで、本体は完成です。がっちりとした無骨な雰囲気がただよっています。

おもて側

うら側

ベルトの装着

今回のストラップはかなりのこだわりの品です。

尾錠は上に来るように注意

NATO軍レザーストラップ

NATOストラップの装着は独特です。ストラップの長い方を文字盤上側のラグの間を通し、さらにも片方のラグの間を通します。

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A

さらに、もう一方のストラップのループに通すと完了です。余った部分は内側に折り込むのところが、このNATOストラップの格好良いところだと思います。

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調整

歩度測定には、世界中の時計マニア御用達のアメリカ製マイクロセット・ウォッチ・タイマー(MicroSet Watch Timer)を使います。本体の電源ON後は、パソコンのみで制御、計測できる便利なツールです。

MicroSet Watch Timer マイクロセット

ウォッチタイマーとクランプに固定した腕時計

パソコンのコントロール画面

フルに巻き上げた状態で計測した結果は以下のとおりです。姿勢差もないですし、遅れもないので、十分と判断しました

姿勢 日差
文字盤上(表) 20〜22秒
12時下(縦位置) 18〜19秒
3時下(リューズ下) 20〜22秒
9時下(リューズ上) 19〜20秒

完成

完成です。針の長さのバランスとあいまって、文字盤の視認性がとても良いです。

半年間、使い込んだ状態
視認性の高いデザイン
手巻き式ムーブメント ETA2804 17石 28,800振動