時計のクオリティには、有名なクロノメーターをはじめ、様々な認定があります。

スイス クロノメーター認定

C.O.S.C.クロノメーターとは

公的機関、スイスクロノメーター検定協会(COSC : Controle Officiel Suisse des Chronometres)が、厳しい精度テストにパスした高精度な"ムーブメント"に与える認定のことです。

その証として、文字盤に「CHRONOMETER」、「CHRONOMETER OFFICIALLY CERTIFIED」の文字がデザインされています。「クロノメーター」というと、ほとんどはこのC.O.S.C.の認定のことを指します。

語源は18世紀にイギリスで開発された航海用の海洋精密時計に由来し、19世紀から各地の天文台で行われはじめた精度検定やコンクールが、こうした認定機関の起源です。

=> C.O.S.C. : Controle Officiel Suisse des Chronometres

試験項目

テストは、ジュネーブ、ル・ロックル、またはビエンヌの試験所で行われます。

5つの姿勢差(ポジション)と3つの温度差で、15日間にわたりムーブメントの精度が検査され、日差においてマイナス4秒以内プラス6秒以内という基準をパスする必要があります。

(20mm以下のムーブメントはマイナス5秒以内プラス8秒以内)

< テスト項目>

テスト項目 #1 #2 #3 #4 #5 #6 #7 #8 #9
測定姿勢
温度 23℃ 23℃ 23℃ 23℃ 23℃ 8℃ 23℃ 38℃ 23℃
機関 2日 2日 2日 2日 2日 1日 1日 1日 2日

この基準は、1878年からビエンヌの歩度検定所で行われていた検査をもとに、1976年、ISO(国際標準化機構)が、テンプ式時計のクロノメーターの国際規格3159として規定しました。C.O.S.Cは、「ISO3159」基準を満たしているかチェックする数ある検定機関の1つなのです。

歩度証明書

クロノメーター認定には、次のようなC.O.S.C.公認の歩度証明書が発行されます。(購入した時計に付いてくることは少ない)

上段は検査するムーブメントのシリアル番号、その下にはムーブメントの種別が記載されます。種別とは、例えば、自動巻きクロノグラフ、直径30mm、厚さ7.55mm等。そして真ん中の表は15日間のテスト結果を記録、下段にはテスト結果がまとめられています。

※あくまで検査結果であり、使っている腕時計の精度を保証するものではありません。

精度の比較

ゼンマイ式の機械では数十秒の誤差が普通で、クロノメーター基準は、きわめて高い精度とみなされます。基礎のページの表の使いまわしですが、ゼンマイ駆動の精度の実際です。

種類 制御 振動数 動力 持続時間 日差 その他
機械式 テンプ 2.5〜5Hz ゼンマイ 1日〜2日 ±10〜20秒 腕時計、懐中時計。数年に一度オーバーホールが必要。
振り子 0.5Hz〜1Hz ゼンマイ
重り
1日〜1週間 ±10〜20秒 掛時計、置時計、塔時計。テンプ式もある。
電気式 音叉 150〜300Hz 電池 1年〜2年 ±2秒 クォーツが発表される前の珍しい機構。
クォーツ 32768Hz 電池 1年〜2年 ±0.2秒 ほとんどの時計。電池交換が不要な自動発電もある。
その他 クォーツ 32768Hz ゼンマイ 2日〜3日 ±1秒 セイコーのスプリングドライブ。
文字盤のクロノメーターの印刷
ゼニスのクロノマスターのクロノメーター証明書

ジュネーブ・シール

古典的な最高クオリティ

最高峰のスイス時計の証明として有名です。

時計の聖地ジュネーブで製造され、伝統的な技法で最高の仕上げが施されていることを証明します。

検査にパスしたムーブメントのブリッジには、わずか1.3mmのジュネーブ市の紋章が刻印され、ジュネーブスタンプとも呼ばれます。

ジュネーブの市章

仕上げ品質の検査

ジュネーブ時計検定局が、スイス政府とジュネーブ州によって規定された基準に基づいて検査を行います。

ジュネーブ州内で組み立てられたゼンマイ式ムーブメントのみが対象で、右表の12の技術基準をパスするだけでなく、ツゲ材で磨いたコート・ド・ジュネーブなどの伝統的技法も取り入れなくていけないのです。

検定局は、ジュネーブの時計学校(エコール・ド・オルロジュリー:Ecole d'horlogerie)の中にあります。

精度の検査

ジュネーブのC.O.S.C.クロノメーター試験所で検査されています。

かつて、5姿勢、3温度(4℃、20℃、36℃)、18日間のテストで平均日差マイナス2秒からプラス10秒範囲に規定されていましたが(1957年の第8条)、その後、1993年にスイスが公認するクロノメーター歩度証明書が取得できていれば良いことに改定されました。

精度の面でも法律で定められており、無条件でクロノメーターを名乗ることはないのです。

限られたメゾンの称号

これまでに、この称号が許されたのは、パテック・フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、ショパール、ロジェ・デゥブイといった限られた高級メゾンだけです。

特に、パテック・フィリップは、すべての時計にジュネーブシールを取得している唯一のブランドで、スイス時計の最高峰といわれる所以です。1つの時計に1200以上の手作業と1200時間にわたるテスト、600時間の品質検査が行われており、当然の結果といえるでしょう。

=> Poincon de Geneve

<ジュネーブ製時計検査に関する法律第3条>

項番 基準の内容
1-A すべての部品は、ジュネーブ時計任意検査局の基準に準拠する。
1-B プレートやブリッジの表面はなめらかに仕上げ、エッジはポリッシュ、サイドはヘアライン仕上げ。ネジ頭はポリッシュし、縁とネジ溝は面取りする。
2 歯車、脱進機の受けには、ポリッシュされた穴を持つルビー石を使用する。二番車のプレート側には必須ではない。
3 ヒゲゼンマイは、可動式のヒゲ持ちにピンで固定する。
4 緩急針にはスワンネック等の固定装置が必要。薄型キャリバーには必須ではない。
5 回転半径を調整可能なテンプは、1-AとBを満たしている場合は使用してもよい。
6 輪列の歯車は、上下両面、面取りをし、溝はポリッシュする。厚さ0.15mm以下の小さい歯車は片面のみで良い。
7 歯車について、中心軸とカナの表面はポリッシュする。
8 脱進機のガンギ車は、厚さ0.16mm以下とし軽量にする。18mm以下の小型キャリバーの場合は0.13mm以下。表面はポリッシュ仕上げ。
9 脱進機のアンクルの振れは、ピン(土手ピン)やびょうではなく、プレートに固定した壁で矯正する。
10 テンプや歯車に耐震装置を使用してもよい。
11 巻き上げ機構の角穴車、丸穴車は、規定の様式に基づいて仕上げる。
12 バネ、スプリングに、針金やワイヤーを使ってはいけない。

カリテ・フルリエ

フルリエの新しいクオリティ基準

スイスのフルリエの町に設立されたカリテ・フルリエ財団が認定する品質基準規格です。

フルリエは、ル・ロックルやニューシャテルの近郊の町で、古くから時計生産地として有名でした。この町に工房をかまえるパルミジャーニ・フルリエ、ショパール、ボヴェの3社が、独自の品質基準「カリテ(品質)・フルリエ」を2004年に立ち上げました。

美しさ、耐久性、静的精度に加え、日常使用も想定した携帯精度もテストするため、今、最も厳しい検定といえます。

文字盤に「QUALITE FLEURIER」の文字がデザインされ、ムーブメントのブリッジには「QF」の刻印があります。

検定内容

「C.O.S.C.クロノメーター検定」で精度を、「CHRONOFIABLE検定」で耐久性の検査をパスしていることが前提となります。ジュネーブシールと同じく、ムーブメントの美しい仕上げも審査された後、カリテ・フルリエ専用の検査マシンによるシミュレーションテストが行われ、日差0秒からプラス5秒以内に収まっていなければなりません。

フルリエテストを行うコンピューターとマシンは、市庁舎の2階にあります。

=> FQF : Fleurier Quality Foundationg

<カリテフルリエ基準>

項番 基準の内容
1 芸術性と技術的基準の審査
プレートやブリッジ、ネジ、歯車の仕上げや、30cm離れた距離から見た美しさやマイクロスコープによる厳しい検査が行われる
2 クロノフィアブル検査(CHRONOFIABLE)
ラ・ショー・ド・フォンにある時計協会の研究所(Chronofiable SA)において、3週間のテストで6ヶ月の耐久性をシミュレーションする検査。リューズ操作やプッシュボタン、ベゼル、防水性能など。
3 クロノメーター検定(C.O.S.C)
ムーブメント自体の精度を検査。上記「C.O.S.Cクロノメーター検定」参照。
4 フルリエテスト(Fleiritest)
カリテ・フルリエの検査マシンで行われる。
日常生活を想定した24時間のシミュレーション。
日差は0秒からプラス5秒以内。


ブザンソン天文台クロノメーター認定

伝統的な天文台検定

フランス唯一のクロノメーター検定機関、ブザンソン国立天文台によって、天文台検定"BULLETIN D'OBSERVATOIRE"という古典的な称号が与えられます。
かつて、スイスのジュネーブ、ニューシャテルの天文台とともに、クロノメーター検定や精度コンクールが行われていましたが、70年代のクオーツショックにより閉鎖していましたが、1995年から再開しています。

検定内容

スイスC.O.S.C.の検定と同じ「ISO3159」にしたがい、15日間5姿勢3温度で行われます。1個あたりC.O.S.C.の3倍のコストがかかるといわれています。

歩度証明書は、スイスの現代的な証明書と異なり古式ゆかしいデザイン。天文台にムーブメントを搬入した日付、脱進機の形式、検査結果、検査部の責任者の署名が記されています。

今のところ検定を受けているのは、高級時計ブランドのロジェ・デゥブイやアラン・シルベスタイン、フランスのダッソーの航空機搭載時計のみ。

=> Observatoire de Besancon

ドイツ クロノメーター認定

ドイツ独自の精度証明

2006年、時計・宝飾の老舗ヴェンペ(WEMPE)によって、グラスヒュッテ天文台にクロノメーター検定所が設立されました。ドイツの工業製品規格を定める機関のもと、官民共同で2008年の国際規格認定を目指しています。

かつてドイツでも1970年までハンブルグ海洋気象台でクロノメーター検定が行われており、グラスヒュッテ天文台は30年代から50年代にかけて時計学校や研究所として機能していた時期がありました。数十年の時を経て、ドイツの時計業界でランゲ・アンド・ゾーネやノモスなど数々のマニュファクチュールが復活し、独自の精度証明が必要となったのです。

完成品で行う検査

スイスC.O.S.C.の検定と同じ「ISO3159/DIN8319」で、15日間5姿勢3温度で行われます。

C.O.S.C.によるクロノグラフの検査ではストップウォッチを稼動させないですが、こちらは9日目までは稼動させた状態で検査をします。また、C.O.S.C.がムーブメントに検査用の文字盤と針をつけて検査するのに対し、完成品としてケース、文字盤、針まで取り付けた状態で行われます。

=> WEMPE Glashutte Sternwarte

グランドセイコー規格

セイコー独自の精度基準

セイコーのフラッグシップ、「グランドセイコー」の品質基準です。

その歴史は古く、初期のグランドセイコーはクロノメーター級に準じていましたが、60年代には日差プラスマイナス3秒以内の時計も市販していました。

現在の新しいGS規格も、クロノメーター規格を上回る高精度な基準となっています。

< GSとクロノメーター 検定比較 >

規格 検定日数 姿勢数 温度 平均日差
GS規格 17 6 8、23、38℃ -3.0〜+5.0(秒/日)
クロノメーター(ISO3159) 15 5 8、23、38℃ -4.0〜+6.0(秒/日)

6姿勢17日間の検定

垂直12時上を含む6つの姿勢差(ポジション)と、3つの温度差で、17日間にわたりムーブメントの精度が検査され、日差においてマイナス3秒以内プラス5秒以内という基準をパスする必要があります。

< テスト項目>

テスト項目 #1 #2 #3 #4 #5 #6 #7 #8 #9 #10
測定姿勢
温度 23℃ 23℃ 23℃ 23℃ 23℃ 23℃ 8℃ 23℃ 38℃ 23℃
機関 2日 2日 2日 2日 2日 2日 1日 1日 1日 2日

おわりに

実際にC.O.S.Cクロノメーター搭載の時計は、スイス国内で生産される約3000万本のうち僅か3%程度です。ロレックスの時計はほとんどがクロノメーター認定で、さすがにその精度の高さがうかがえます。ブライトリングも1999年に100%クロノメーター化を発表し、機能性やデザインに加え時計本来の精度も重視してきています。

一方で、地域が限定されたC.O.S.Cやジュネーブスタンプに対し、カリテ・フルリエやドイツクロノメーターなど新しい精度検定が創設され、品質を重視する傾向が業界全体で高まってきました。

また、IWCやジラールペルゴ、ジャガールクルトは、そういった外部の認定を取得していません。自社で厳しい精度検査を行なっている自信の表れかもしれません。

グランドセイコーのライオンの刻印
グランドセイコーの精度証明書